2011年1月27日木曜日

続・ザッポス伝説 -ザッポスの成功要因について-

ちょっと前にザッポス伝説についての感想を書いたが
引き続きザッポスの成功要因について考えてみた

念のため先に"いいわけ"をしておくが
これはブログなのでアカデミックに考える気はないし、
アカデミックな定義と違っても実務的に理解できればいいと思っている

まずは、そもそものビジネスモデルを整理すると、
オンラインの靴屋さんはいわゆるプラットフォームビジネスになる
下図参照
















ツー・サイドプラットフォームビジネスとしてとらえると
(簡単のためツー・サイドと仮定する)
ザッポスの周りで働く主な力学はというと

・サイド内ネットワーク効果(図の①)
 同じサイド内の参加メンバーが増えれば増えるほど
 プラス(もしくはマイナス)の影響が出る
 Ex.1 Mixiを利用する友達が増えれば増えるほどMixiの価値が上がる(+)
 Ex.2 求職者が増えれば増えるほど採用への競争率が高まるので
    そのWebサイトを避ける(-)

・サイド間ネットワーク効果(図の②)
 違う参加の仕方をするメンバーが増えれば増えるほど
 プラス(もしくはマイナス)の影響が出る
 Ex.1 PS3にゲームを提供する会社が増えれば増えるほど
    消費者にとってPS3の魅力が高まる(+)
 Ex.2 マイナスが思いつかない、、、

の二つがある
基本的にはこの2つのネットワーク効果をプラスに働かせる打ち手を狙う(はず)
で、ザッポスの行動をまとめると下表のような感じ








もちろんバランスの問題もあるが、

・クリティカルマスを超えると一気に業界標準(Winner-takes-all)になりやすい事
・上述のサイド間ネットワーク効果のプラス面

を考えると、
消費者側、補完業者側(メーカー側)のどちらを先に増やすかという問題が出てくる

基本的にはリスクが少なくてリターンが大きそうな側にかけるしかないのだが、
ザッポスの場合は、後者の補完業者側を選んだ

・“靴の種類さえあればもっと売れる”という確信
・ユーザー数を増やすためには莫大なプロモーションコストがかかるが
 ネットバブルの崩壊でそれほど大きな手持ちキャッシュがなかった

という事が決め手だったが、この判断が正解だったように思われる

つまり、靴の種類を増やすというのは、いわゆるロングテールの考え方にも合致し
ザッポスを利用してくれたユーザーを効率的にアクションさせる事ができるからである
(お金をかけてユーザーを集めても欲しい靴がなければ売上げはたたない)

つまり、「ネットワーク効果をプラスに働かせた」ことが一つ目の成功要因だと考える


次に、大きな転換点となった
アウトソース vs 自前主義の影響を考えてみる

一般的にアウトソース化はコストを変動費化できるので
ビジネスの規模が小さい時にはいいが
売上規模が大きくなっても利益が増えにくい

逆に自前主義の場合、コストが固定費化されやすく
ビジネスの規模が小さい時には負担が大きいが
売上規模が大きくなるほど利益が増えやすい

また、アウトソース化は自社のコントロールが効きにくくなるリスクをはらむが
ある意味ではプロフェッショナルとして当たり前の品質は担保されやすい
自前主義の場合、自社方針に沿った運用がしやすいが
マネジメントにリソースをさかれる

そして、売上をどう作っていくかという問題であるが

売上 = 顧客数 × 顧客単価
顧客数(新規+リピート)
顧客単価(1回あたり単価×購入頻度)

全部できれば全方位で対策していくに超したことはないが、
たぶん打ち手のどこかで不整合がでてくるし、
立ち上げ期のベンチャーにぜんぶやることなんて無理だろう

基本的には、何度も何度も繰り返し購入するような商材
(かつ、マルチホーミングコストが高い)の場合は
リピートを増やし、購入頻度を高める方がフィットするだろうし

繰り返し購買するような商材ではない(かつ、マルチホーミングコストが安い)のであれば
新規獲得を増やして1回あたり単価を高めるほうが得策だろう

ザッポスの場合は、扱う商材が"靴"であったため、
繰り返し購入を前提としたビジネスが成り立つ範囲であったと考える
(下図のようなイメージ)













そうであるならば、コールセンターや配送に関しては
アウトソースよりも自前にして顧客ロイヤリティを高め
リピーター化してもらう方が売上UP、収益性UPにつながるだろう

ちなみにこのようなプラットフォームサービスは消費者側の利用料は
ほとんどのケースにおいて無料なので、
マルチホーミング(複数利用すること)コストはきわめて安いので
顧客ロイヤリティは本当にそんなに重要なんだろうか?という疑問もある

しかしながら顧客ロイヤリティを高め、
最初に使われる存在でいる事にはそれなりに意義がある、
なぜならば自分が欲しいものが見つかったら、
ほかのサイト(店舗)は面倒だから探さないというような
価格感度の低い消費者はそのプラットフォームで購入する可能性が高いからである

そもそもなぜ自前主義にした方が

・顧客ロイヤリティがあがるのか、
・収益性が高まるのか、

という所もある程度想像がつく
ザッポス伝説の中にも出てくるように、
受注経路としてはコールセンターが結構大きなチャネルになっていると思う

一般的にコールセンターといえば、従業員満足度は低く
マニュアル化された対応が主で離職率が高くなりがちな傾向がある

離職率が高いという事は

・求人費用が高くなる(求人広告費、時給を高めるなど)
・ナレッジが蓄積されにくく生産性が高まらない

これは、まさに収益性を下げる方向に働く要素である
そしてこれが一般的なコールセンターの実態だと思う

一方でザッポスがとった方法は

コールセンターの従業員に裁量権をもたせ、
かなり自由に顧客と対峙することができるようにしている

また、採用の時点でこういった顧客とのコミュニケーションを
楽しめる資質を持つ人材しか採用しないプロセスにしている

つまり、

裁量権が渡されているので顧客とのコミュニケーションを楽しんでよいわけで、
(むしろ顧客を驚かせるようなサービスが推奨されているほど)

これにより顧客満足度とともに従業員満足度が高まる

従業員満足度が高まるということは離職率も下がり、
求人費用が下がるともに、ナレッジが蓄積され生産性も上がっていく

生産性があがるとより顧客とのコミュニケーションを楽しめるようになり
顧客満足度もさらに上がるという好循環に入る

顧客ロイヤリティを高める、という方針のもと
人事制度も、現場でのオペレーション方法、権限付与も
整合性が取れたものになっているのである

これらをまとめると、
「自前主義で従業員満足度、顧客ロイヤリティを高めることがプラスに働いた」
というのが二つ目の成功要因

なんだよ結局最後は、

「サービス産業は従業員満足度を高めて、顧客ロイヤリティを高めましょう、って話か」
なんて思わないで欲しい、
あくまでもザッポス(靴販売)の場合はそっちの方が
売上の作り方にフィットしていたというだけで、
なんでもかんでも従業員満足度、顧客ロイヤリティを
高めるようなサービスを提供しましょう
なんて考えるのは間違ってると思ってるので
(往々にして日本のサービス産業は過剰サービス&コスト高=生産性低い)

あくまでもビジネスモデルとフィットする、
整合性があり打ち手の方向性に一貫性があるものにしないとダメなのだと思う
そういう意味では、
ザッポスの打ち手、進んだ道は
ビジネスモデルとの整合性も高く一貫性のあるものだったと思う


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